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青木克憲の考え方

Chapter 12

青木克憲の制作プロセスの考え方

1.まずはまとめてみる

新しい発想の出発点として必要なのは、情報を集め、競合商品の表現なども参考にしながら、まず自分なりにひとつの表現としてまとめてみること。このスピードは早ければ早いほどいい。なぜなら、ここで重要なのは、表現としての完成度より、スピードによって得られた時間で、自分の創った表現を客観的に見つめ直すことだから。

実はこの段階のものは、サブカルチャーよりのものだと僕は感じている。同世代や自分と同じ価値観を持った人にはものすごくおもしろいかもしれないが、「すべてのひと」に届ける表現としては、マイナー過ぎることが多い。その魅力をメジャーにするためには、何をどうすれば解決できるかを考えることが、次のステップ。

2.わかりにくいものをわかりやすく

解決の糸口は、その表現に著名人をプラスすることであっさりつかめることもあれば、コピーで解決できることもあるが、多くの場合、1枚のポスターやテレビCFといった特定のメディアの中に表現を埋没させずに、表現を立体的に組み立て直すことで解決できることが多いと僕は感じている。

僕が考える普通の原稿や企画が、コレである。これは、クライアントに提案しても依頼されたものを素直に形にしたものになるので、受け入れられやすいものになる。

3.わかりやすくしたものを深く

この段階では、今一度、内容の優先順位やポイントを再考する作業。ある程度、形にした表現が2つあるので、再考しやすくコンセプトや本質を見極めやすくなっている。

メディアの使い方や社会へのリーチの仕方まで含めて考えることが重要。ここをしっかり考えておかないと、コンセプトも定まらないし、せっかく創った表現も、社会で流通しないマイナーな存在で終わってしまいかねない。デザイナーの多くは、自分は図案家だと思っているし、メディアの使い方を考えるのは自分の仕事ではないと思うかもしれない。しかし、デザインを辞書で引くと「企画」という意味だとわかる。企て、画策するのも、デザイナーの仕事だ。

4.深くしたものを明るく

3.までのステップで、部品が揃ったと考えるなら、次はそれを磨き上げる工程。細部もおろそかにせず、小さなこだわりを積み重ねていくことで、「わかりやすさ」や「魅力」は、どんどん輝きを増していく。

5.明るくしたものをまじめに伝える

このパートはとりあえずはクライアントの担当分野。しかし、伝え手によってぶれることのない芯のしっかりした表現とコンセプトを提供することがクリエイターの責務だ。当初は仲間内にしか受けなかったマイナーな表現が、洗練され、誰にでも伝わる新しいムーブメントになっていく喜びが味わえる。

このいい例が祭りだと僕は思う。日本のような統治国家でも、激しい祭りが行われている。他のケースならおそらく即刻社会問題になるだろうが、祭りという公認された非日常空間では、許容範囲なのだ。僕もいつかは、この祭りのような圧倒的なクリエイティブを創ってみたいものだと、しみじみと思っている。

6.流行からスタンダードな普通のものに

公認された非日常とは、あたらしい流行を産む。流行になることで、広くユーザーに支持され、その結果、制作に関わる多くの人達は、この流行を取り入れようとします。それは、時代の気分を表現し、すべての人に求められる何かがあると流行の表現や技法に感じるからです。そうやって、流行の表現や技法は、模倣とアレンジを繰り返され、拡大再生産されながら、ある時期を境に普通なもの、当たり前なものになっていきます。流行からスタンダードなものになっていくのです。