butterfly・stroke inc.

青木克憲の考え方

Chapter 10

記号性の高さ、汎用性の高さ、スピード(ネットワークの広さ/速さ)

様々な仕事を経て、僕はより記号的な表現を目指すようになりました。表現の記号性や汎用性が、高くなればなるほど広告としての強さが増すからです。

その成功例のひとつが、キリンラガービールのキャンペーンです。このキャンペーンでは、従来からのオーバルマークを、キャンペーン用に記号性を高めたポップな表現へシフトさせました。またいろいろなノベルティにも使われていくことを想定して、単色でも使えるし、どんなものにも落とし込める汎用性を高めたマークとしました。

さらには、表現上の汎用性を高めるために、イラストレーションとマークの中間的な表現で制作することで、マーク自体でも表現の展開ができる設計としました。こうすることで、3年間という長いキャンペーンをひとつの表現として継続可能な持続力を持たせることも想定したのです。

またテレビCMなどで登場していただく著名な俳優さんやミュージシャンの方々も、ターゲットに広く訴求するために何組もの設定がされています。この設定に『カンパイ!ラガー!!』というスローガンをつけて『豊かなビール』であることを表現していきました。

キリンラガービールのキャンペーンがうまくいったことで、これ以降、大きな広告キャンペーンを引き継ぐことも多くなりました。しかし同時に、大枠が決まっているものは面白くないと思うようにもなりました。また広告が受注生産であることに限界を感じるようになったのもこのころです。

僕に、もう一度、自分の目標を改める時が訪れたのです。

受注産業からの脱皮を目指して

閉塞感を打開するために、僕は今までイラストレーターや作家との仕事が多かったことを活かして、違うアプローチが出来ないか?と考え始めました。その答えが、ライセンス業界に向けてキャラクター・ライセンスという枠組みで、いままで培ってきたノウハウを使うアプローチです。バタフライ・ストローク・株式會社を設立してから5年目。仕事を少しでも受注生産から生産型へ変えることも考え始めました。

自分たちのオリジナルキャラクターとなるモノを作り、探した結果、コペット・カミロボ・ハットトリックス・にじぞう・ようこちゃん・グラフマンなどたくさんのライセンスが出来るようになりました。

ライセンス業界に向けてアプローチし、メーカーと直接関わる仕事を増やしながら、一方で従来の広告業界でも、そのキャラクターを契約し使用してもらう。さらに可能であれば広告制作の部分も受注する……。僕の仕事は、そういう独自の方式に少しずつ変わってきています。

キャラクターライセンスをスタートさせ、イラストレーターや作家、クリエイターのマネージメントやプロデュース、版権管理までを自分の仕事にするようになって、最近では、従来の業界別のカテゴリーをはじめとする縦組の境目がだんだんなくなっていくように感じています。

新しいものを考える時は、まず現状のモノやコトに疑問を持つことが、第一歩です。わかりにくいことをわかりやすくしたものは、まとまったもので、普通のものです。その中から再度、訴求したいポイントを洗い出して、その重要なポイントが、仮に2つあれば、それぞれに表現する他のやり方がある訳ですから、それが交わる部分の表現を突き詰めて導かなければいけません。

しかしAとBを足してA+Bを作るということではありません。A+Bというのが今まで言ってきた整理されたまとまった原稿(タタキの原稿)なのです。作るべきはAとBの複合から生まれるCなのです。そのためにもA+Bという整理されたまとまった原稿(タタキの原稿)を初めに素早く作り、それ(A+B)を観ながら自分なりの考え(疑問)を持つことが、クリエイティブ(複合されたC)を作り出す第一歩なのです。

そしてコンセプトを立て、ひとつひとつの積み重ねをしてAとBの複合したCを考えることで、価値観を変えるような、新しいモノとしてCを創っていく必要があるのです。

カミロボのイベントを表参道ヒルズで開催する原動力になったのは、ライブ的なエンタテインメントの複合を実際に自分たちでやって、その考えが合っているのかどうか、確かめたいという気持ちでした。

結果は、今までのどの広告の仕事でも味わえなかったような、最高の出来だったと自負しています。またこれを経験したことで、従来の仕事でもこれ以上のものができるという自信も湧きました。