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青木克憲の考え方

Chapter 13

新しいものはたくさんある

こういった繰り返しをしながら、世の中の流行やメジャーなものは作られ消費されていきます。近年、リバイバルなものの流れも、この考えの流れに乗っかっています。

図にすると、このピラミッドのてっぺんに上り詰めるのは大変なことと思いがちですが、でも実は底辺の方にはまだまだメジャーに出来る新たなものがたくさんあることも感じられると思います。

世の中にある、わかりにくいものと書きましたが、この可能性のある素晴しいものをどう整理してまとめ、表現や企画していくか、何と何を複合させて、世に出していくか、皆さんも真剣に取り組んで、ひとつでも多くのメジャーなもの、流行、ムーブメント、スタンダードなものを創っていって下さい。

それらが、たくさん作られ、生まれることで、僕たちの生活や文化は、もっともっと豊かになっていくのです。

オリジナリティはどうすれば表現できるか/子どもの頃夢中だったものを思い返す

「自分らしい、自分独自の表現を追求するなら、子どもの頃、どんなことで遊んでいたか。どんなことに夢中になっていたかを思い返してみなさい」―これは、僕が表現の方向性を模索していた20代前半の頃、グラフィック界の大御所、青葉益輝氏に教わったことです。

「いい話だな」と思ったものの、当時は、与えられた仕事をこなすのに精一杯だったり、タイポグラフィーに夢中だったりして、即座に実践する余裕を持つことはできず、しばらく忘れていました。

そこから年月が経ち、仕事がそこそこ軌道に乗ってきた頃の話です。当時、僕はとにかく時間があれば街に出て、若者のファッションや流行を見てまわるようにしていたのですが、たまたま「ノベルティの参考に」と立ち寄ったある玩具店で、子どもの頃、大好きだったウルトラマンの怪獣「ガボラ」のフィギュアに再会したのです。青葉益輝氏の話を思い出したのは、そのときだったと思います。

ようやく青葉氏の教えを実践してみることにした僕は、自分の子どもの頃に好きだったことを振り返ってみて、何を良いと思っていたのか、もう半分忘れかけていた当時の気持ちを思い出すために、小学生の頃、遊んでいたフィギュアや読んでいた本、好きだった映画のDVDなど、記憶を掘り起こすヒントになりそうなものを買い集めることにしました。

出逢った事象から自分の好きな部分だけを抜き出し、複合させて新しいモノをつくる

僕は、ウルトラマンに仮面ライダーという世代で、特に玩具で好きだったモノは、変身サイボーグ1号という男の子用の着せ替え人形のシリーズでした。これはテレビコンテンツではなく、正義対悪以外の細かな世界観が定まっていないことで、逆に自分なりの空想がひろがって、夢中で遊んでいました。

どんなふうに遊んでいたかと当時の写真を見ていたら、このキャラクターのボディに、このキャラクターの装備をつけて…という具合に、複数の着せ替えパーツやボディパーツを自分の好きな配色に組み替えたりして、自分だけのオリジナルキャラクターを作っている気分を楽しんでいたことも思い出しました。

さらに深く自分をひも解くために、当時を振り返って行くと、いろいろと考えさせられることになります。子どもの頃の写真を改めて見てみると、自分がタイガーマスクのようなプロレスヒーローを再現しようとする写真がありました。マスクもベルトもタイガーマスクのそれとは全然似ていませんが、身近にあったもので代用して、タイガーマスクのような気分を楽しんでいたんだと思います。

それは、自分が出逢った様々な事象から、自分が良いと思った部分だけを抜き出し、複合させて新しいものを作るという、今の自分の仕事に対するスタイルの原点がここにあったことに、気付かされた瞬間でした。改めてそれを認識することで、僕は、確信を持って、自分のスタイルを追求することができるようになったのです。

商品力、パッケージ、ラベル、広告などの要素が、ひとつの集合体として機能することでヒットに繋がる

とはいえ、このコスチューム写真からタイガーマスクを連想する人は少ないでしょう。でも、よくよく考えてみると、この写真とタイガーマスクを構成する、マスク、ベルト、マントというパーツは共通です。それらをすべてタイガーマスクと同じにすれば、タイガーマスクになるわけですが、この写真では、ひとつひとつのパーツのディテールや完成度が低いから、そうは見えません。だとすれば、ひとつひとつのパーツのディテールや完成度を高め、すべての面においてタイガーマスク以上のものを作ることができれば、タイガーマスク以上のキャラクターを作ることも可能だということです。

今の自分の仕事においても同じことが言えます。商品においても、商品単体で見るのではなく、パッケージ、ラベル、ロゴ、広告など、様々な要素が、ひとつの集合体として機能することで商品に対する理解や共感が広がり、それが積み重なることでヒットに繋がる。どれかひとつが欠けてしまったり、他よりもレベルが低いものが混じっていると、思っている以上の成果は上げられない、ということにも気づかされました。