butterfly・stroke inc.

青木克憲の考え方

Chapter 7

最高のものを作るために

そういう最高のものを作るにはどうするのか。答えはあっけないほど簡単で当たり前です。いちばん大切なのは、まずはクライアントの依頼を良く聞いて理解すること。クライアントにとっても、制作者にとっても良かったといえるデザインやディレクション/プロデュースには、お互いのコミュニケーションが欠かせません。

とはいえ、十分なコミュニケーショがとれたとしても、それで良いデザインやディレクション/プロデュースが完成するわけではありません。誰がやってもいい仕事を、自分ならではの仕事に昇華させるためには、自分の表現の方向性を明らかにしなければなりません。自分は何が得意で、どういう表現方法や技術に長けているのか、また何が不得意なのか、自分自身の身の丈を知り、自分の方向性を知ることが、いいデザイナーになるということだと思います。

制作過程にはいろいろな段階があり、うんざりするようなことも少なくありません。そんな毎日の中でもへこまず、自分なりにモチベーションを上げられる部分を発見し、楽しんで仕事をすることも大切だと思います。それも目先の目標を決めるということに繋がると思います。

僕が、そういう考えを持つきっかけになったのが、広告のディレクターとして参加したオカモトコンドームの広告キャンペーン(複数の媒体を使って広告を出稿すること)です。

コンドーム業界は、ずっと公共的な媒体(テレビCM/駅貼り広告)では広告展開をしてこなかった業界でした。ところが、エイズの社会問題化を追い風にして、その最善の予防法として脚光を浴び、広告キャンペーンを打つことになったのです。しかし、メディア側には様々な制約が存在していました。いえ、制約があるならまだしも、当時は前例もなく、具体的な制約の基準さえない状況でした。普通は、クライアントに対して行う提案を、メディアに対して何度も何度も提出して、やっと『写真はやはり厳しい』などと指示を戻してくる始末でした。

コンドームの広告を打つのに、コンドームの写真が使えなかったり、商品名すら、書体の大きさに制約を受けたりする、とても難しい状況だったのです。まるで、ラフの100本ノックのような感じでした。最終的にひとつのヴィジュアルでは、このキャンペーンは乗り越えられないということになり、キャッチコピーでキャンペーンを串刺しにして展開するという案におさまりました。

このキャンペーンは、広告に慣れた大企業の広告を作るよりも何倍も大変な仕事でした。しかしこの仕事を何年か担当させていただいた過程で、広告主と広告制作チームが一丸となる作業こそ、とても重要なことで、良い広告にはたくさんの人が集まってものを作っていくことが必要不可欠な条件だということも思い知らされました。

この経験のおかげで、他の大きなキャンペーンなども自信を持って手がけられるようになり、デザインとディレクション(企画やアイデア出し、それを監督する立場)を自分のものにできたと思っています。

結果的に、ベネトンコンドームの広告は、多くの広告賞をとるなど、自分が認められた仕事にもなりました。また特定の書体にこだわったデザインも自分なりの表現だと確信を持って提案できるようになり、その延長線上では、ヒロミチ・ナカノのマークロゴも賞などをいただきました。