butterfly・stroke inc.

青木克憲の考え方

Chapter 2

子会社の店頭ツール制作からスタートした吉野家ホールディングスの仕事

バタフライ・ストローク・株式會社の主要クライアントのひとつに、吉野家ホールディングスがあります。吉野家ホールディングスとのお付き合いは、グループ会社の「はなまるうどん」の店頭まわりのロゴマークを統一したいという依頼から始まったものです。広告制作であればオリエンテーションを受け、それに対して企画を考え、提案・承認を経て、実施することが常ですが、店頭施策にはそんな悠長な話は通用しません。期待されてるのは、クライアントと同じ熱量を持って、一緒に走り続けるパートナーであること。例えるなら、マラソンランナーが、走りながらフォームを変えて行くような感じだと思います。泥臭いやり方ですが、それが評価されて、バタフライ・ストローク・株式會社は、グループの中核企業である吉野家の広告制作を担当することになったのです。

子会社の店頭ツールで実績があったとは言え、クライアントにとって中核事業のクリエイティブを僕らに任せることに不安はあったはずです。その不安を安心に変え、信頼を培うことが僕たちが最初に越えるべきハードルです。そこで考えたのは、これまで大手広告代理店が担ってきたCMのセオリーを踏襲することで安心を提供し、よりクオリティを高めることで信頼を培うことでした。その結果が、ローラさんを起用した「麦とろ牛皿御膳」のCM。オーソドックスな設計のCMだからこそ、商品のシズル感などのディティールにはこだわり抜き、競合から頭ひとつ抜けた表現ができたと思います。新商品という要因もあり、商品はヒットし、僕らに対する信頼も勝ち取ることができました。

培った信頼を糧に、僕たちは次のステップを目指しました。それが吉野家の原点である築地一号店を舞台にしたブランド広告です。築地一号店は昭和34年1月にオープン、直前の昭和33年12月には東京タワーが開業しています。すぐに同じ時代を描いた映画「ALWAYS三丁目の夕日」を思い出し、この映画のスタッフをそのまま起用してCMをつくるというアイデアが浮かびました。15秒、30秒というテレビの尺を前提にしたCMではなく、それ自体が映画のように楽しめるCMなら、SNS等で若者層や女性層などの新規顧客層にも到達させる可能性が高まります。幸い、美術監督の上條安里さんはオフィスのエントランスを作ってもらった親しさがあり、監督の山崎貴さんとも別の仕事を通じて既知の間柄だということも僕の背中を押しました。クライアントの承認もとれ、企画はスタートしました。

「ALWAYS 三丁目の夕日」のスタッフの起用には、期待以上のメリットがありました。まず彼らは、自身の映画制作を通して、昭和の時代背景を十二分に理解しています。既に蓄積のある情報に、当時の吉野家と築地市場の情報を加えていただくことで、短期間で厚みのある表現を創り出すことができました。CM用に再現したセットの写真と当時の写真を比べて見ると、そのクオリティの高さは一目瞭然です。さらに、豪華な俳優陣のキャスティングも可能になり、東宝のスタジオも、長期間お借りすることもできました。また、山崎監督の推薦で、監督としても知られる福田雄一さんに脚本を担当していただくこともできました。いずれも、通常のCM制作のルートで行えば、とんでもなく時間と手間がかかることばかりです。

このCMシリーズは、テレビCMとしても評判になりましたが、当初の狙いだった新規顧客層のブランディングにも大きく貢献しました。SNS施策用に編集したロングバージョンは、毎回、数百万回の再生を記録。YouTubeなどから賞も受賞するなど、十二分に目的を達成することができました。