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青木克憲の考え方

Chapter 16

オフィスの環境へのこだわりも自分らしい表現につながる

1999年に独立して、自分の事務所を構えることになったとき、まず最初に考えたのは、どのようなオフィスにするかということです。物件探しから内装までに半年くらいかかりましたが、他のデザイナーの事務所におじゃまして、参考にさせてもらいながら考えを進めていきました。

 最初のオフィスは、東京の中央区新富町に構えることにしました。中央区には製版所や印刷所が多く、グラフィックの仕事をするには効率が良い場所だと思ったからです。最終的に決めたオフィスビルは、角地の8階で、隣のビルよりも高い位置にあって四方の窓を開けることができるというのが、とても開放的で気に入りました。

 オフィスは大きく改装し、備品のひとつひとつまで、自分が好きなもので揃えていきました。灰皿などのちょっとしたアンティークな小物から、オーダーメイドで制作したテーブル、飾るためのビンテージトイまで、会社にあるすべてを自分が良いと思うものに統一することが、仕事のイメージを膨らますためには欠かせないし、オフィスに足を運んでくれるクライアント、共にクリエイティブを進めていく外部スタッフに対して、僕が良いと思っている方向性の無言のプレゼンテーションとしても機能させられると考えたからです。

 だから、お客さんが座るイス、お茶を取り出す冷蔵庫、グラスなどは、とりあえず選ぶのではなく、相当吟味して選び、インテリアなどもできるだけ目につきやすい記号的でキャッチーなもので揃えました。

 こういう場で打合せを行うと、僕が良いと思って愛用しているものに、僕以上に精通している人や、興味をもってくれる人もいて、そこで会話が弾むこともあります。僕が良いと思うことを、相手はどう思っているのか、相手はどんなところを良いと思っているのか、自分の知らない知識や感性に触れることで、自分の知識や感性のアップデートも出来ます。これは、想定外のメリットでした。

 話は少し横道にそれますが、自分が良いと思っているものが、まだ世の中で浸透していない場合、他人はそれをどう受け取っているのかという点を知ることはとても興味深いことです。僕の会社では、日本でまだ紹介されていないアーティストの作品を自社のカレンダーで使用することがあります。2009年版はアメリカのスティーブン・フロイド氏の作品を使用させてもらったのですが、周囲の人はそのアーティストの情報はもっていないのにも関わらず、例年に比べカレンダーの反応がとても良好でした。こんなときは、どこを良いと思ってもらえたか、何がひっかかったのか、多くの人の意見の中に、世の中の流行だったり、コミュニケーションのポイントの、ヒントが隠されているように思えます。

仕事を整理するシステムが、次の仕事の効率をアップさせる

さて、オフィスに飾っているものの中で、立体の造型物は、常に目に入ってきますが、気に入ったグラフィックは大切に保管しようと思っても、一度倉庫に入れるとそのままになってしまい、時間とともに忘れていきがちです。なので自分が手掛けたポスターなどは、ポスター専用の棚を新調し、思い立ったときにすぐ取り出せるよう整理しました。人から頂いたDMやポストカードも、気に入ったものは額装して目の届くところに飾っています。

サン・アド時代は、自分のデスクは書類の山になりがちだったので、落ち着いて表現を考える場所は、たいてい物がなくスッキリしていた作業テーブルでした。広告の仕事の流れを大まかに言ってしまえば、打合せをして、整理をして、形をつくるという繰り返しですが、その循環の中では、オフィス内は整理がおろそかになりがちなのです。

そこで、整理がつきやすいシステムを考えようと思い、案件ごとにまとめられるようなオリジナルの箱を制作しました。箱ごとに整理できているので、必要書類を探すスピードも早いし、その案件の箱だけをもって、打合せに参加するというやり方であれば、デスクや打合せ用テーブルはすっきりさせておくことができます。必然的に、従来よりも作業の効率化ができるようになりました。