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青木克憲の考え方

Chapter 4

わかりにくいものをわかりやすく、わかりやすくしたものを深く考えて、
深く考えたものを明るく表現して、明るく表現したものをまじめに伝える。

そんな中で、僕が大切にしているのが、このタイトルになっている言葉、『わかりにくいものをわかりやすく、わかりやすくしたものを深く考えて、深く考えたものを明るく表現して、明るく表現したものをまじめに伝える』です。

この言葉は、作家・故井上ひさしさんの明言「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」を、フィールズの会長さんが社員の方々に向けたメッセージとして、その一部をアレンジして使われていたもので、僕も間接的に聞いて素晴しいと思いました。とても端的にモノを創るためのプロセスを表しているからです。これは自分の制作の過程にも欠かせない考え方だと感じ入り、その後は仕事の進行中にたびたび思い起こし、活用しています。

みなさんも、この言葉を、仕事の端々で思い起こしてみてください。担当している仕事がうまくいっているか、課題はどこにあるのか、今後、どのように進行すべきかを、自分なりに感じることができると思います。それを繰り返すことで、仕事はどんどん精度を増し、コミュニケーション力や表現力も深まっていくでしょう。

まだ、学生の方や社会人になったばかりの方も、自分のめざす方向が見えてきたと感じられる日が来たら、ぜひこの言葉を思い出してほしいと思います。この言葉の持つすごさは、デザインに限らず、すべての仕事、すべてのことを興す時にあてはまることで、必ず役に立つと思うからです。

新たなものを創造するために

クライアント(広告主、メーカーなど)は、すべての人(ユーザー)に求められているデザイン、クリエイティブ、エンタテインメントを望んでいます。

しかし、多くの人に受け入れられるものを考えるのはとても難しいことです。だからデザイナーに限らず、制作に関わるクリエイターの多くは、流行を取り入れよう、時代の気分を表現しようと考えがちです。そこに、すべての人に求められる何かがあるような気がするからです。そうやって、流行の表現や技法は、模倣やアレンジが繰り返され、拡大再生産されながら、ある時期を境に普通なもの、当たり前なものになっていきます。流行からスタンダードなものになっていくのです。

うまく、早く、流行に乗れれば、この方法論である程度の恩恵を受けることは可能です。しかし多くの場合、乗ったはずの波は下り坂になっている事が多いものです。アンダーグランド(わかりにくいもの/サブカルチャー)がメジャーにあげられ、楽しまれ、そして普通なもの、スタンダードなものになるスピードは、想像以上に早いのです。

だから、流行を追いかけるよりも、僕らにとって大切なものは新たなものを創造することです。それが結果的に流行になれば一番良いと思うのです。これからメジャーにしたいもの、メジャーになるものを考え、作る必要がある。ということを、頭に入れておかなければなりません。

自分の目標を見定め、自分の表現技術を作る

流行に乗るのではなく、流行を創造するために欠かせないのは、漠然とものをつくるのを止め、自分の表現したいものを見定め、その表現技術を極めることです。これが、クリエイターとして最初に越えなければならないハードルです。そのためにはまず、自分の目標の方向性を見定めることが必要です。

解決策のひとつとしてお勧めしたいのは、自分なりの技術論を身につけること。まずは、ひとつでいいのです。それができると、その後の展開がどんどんと楽になります。

自分が進むべき方向性を、自問自答して考えをまとめるのは、簡単のようで難しいことです。しかし一度、方向を見定めてしまえば、その後の作業を進めるのがとても効率よくなります。結果、その段階では目標に至らなくても、次に繋がる問題点も見えてきますし、何よりも気持ちよく作業を進められます。

人それぞれ考え方は違います。何を基準にするかで変わってくると思いますが、何らかのきっかけで、デザインをやろうと思っているのですから、どうしてそう思ったのか、何が魅力的だったのか、どうしたいのか、自分の考えを明解にすることで、今、自分が目標にしなければならないものは何かが、見えてきます。そうすると探るべき表現の方向も自然と決まっていきます。

あらかじめ区切りを決めておいて、目標を変えるのも良いと思います。手始めに小さな目先の目標を決めて、実行してみると達成感も感じられて良いのではないでしょうか。