黒川雅之×古平正義

2009年3月7日にbtfでトークを行ってくれたのは、新しいモノづくりに取り組む、建築家でプロダクトデザイナーの黒川雅之さんと、さまざまな舞台で活躍するグラフィックデザイナーの古平正義さんでした。ジャンルも世代も違うふたりですが、互いにエディトリアルデザインの要素を自らの仕事に活かしているそうです。では、それは一体、どのようなことか?ふたりの話をレポートします。

黒川雅之×古平正義


K

今、やっているこの会社は、私の生涯最後の夢を実現するための会社で、プロダクションとアライアンスの会社です。人と地球と、分離してしまっていたものを、再びまた、くっつけようとしているのがこの会社です。つくり手は、ただコンピュータの中でデザインするだけじゃなくて、土や木という素材に直に手で触れて、地球と会話しながらモノをつくる。デザイナー、デストリビューター、マニュファクチャーをつなぐ、その真ん中にいるのが、このKという会社になります。


海外にモノを売る

Kシステムは、日本のものを世界に売ろう。そういう動きをしようとしてきました。ネットでモノを売ると言っても、それはそれで難しいんです。中国人は元で払いたいし、アメリカ人はドルで払いたいし、イギリス人はポンドで払いたい。そして輸送費を何とか安くしたい。ネットというのは世界中に繋がってすばらしいんだけど、物販ということになると、途端に難しくなる。それはそこに地域性が出てくるからです。だから、Kシステムでは、現地の代理店などを通じてハブショップをつくることにした。そういうネットワークづくり、仕組みづくりをしているのがKシステムです。これは本当に面白くて仕方がないことです。


これからのモノづくり

これまでのモノづくりとは、生産から販売まで一環して行うモノづくりや、工場を持たないメーカーがOEM生産で工場に製造を発注して行うものづくりだったりしました。しかし、これからのモノづくりは、ハード(製造、技術)とソフト(企画やデザイン)が一体になったモノづくりの仕組みを整える必要がある。従来型のモノづくりだと、時代感覚や市場動向を無視した技術中心のものになってしまったり、市場に目を向けすぎるあまり技術軽視の傾向が浮かんできたりしてしまっていた。しかし、それが、製造企業とKのようなプロデュース企業が、ハードとソフトの両方を同列に共存させる仕組みの中でモノづくりをすることで、技術の深化もできて、市場に向けて商品開発もできるようになるわけです。

14のブランド

Kには全部で14のブランドがあります。ひとつひとつ思想が違うブランドが、集まっている。例えるなら、Kという会社は森で、14のブランドは木、ひとつひとつの商品は葉です。それぞれのブランドは独立しています。Kで意識しているのは、エディトリアルデザインの感覚をモノに持ち込んだらどうなるかということ。何かと何かを合わせたら、そこから何が生まれるだろうかということですね。例えば、IRONYというブランドは鉄瓶のブランドです。清光堂(佐藤琢実作)+いげた工芸社(黒谷哲雪作)が製造を行っていて、企画やデザインをKがやっています。で、製造者に売れ残って在庫になっていた茶蓋を、現代的なフォルムの鉄瓶に組み合わせている。そういう発想の仕方が、とても編集的だと思います。


デザインに大切なこと

私がデザインにとって大切だと考えることは、沈黙、偶然、気配というものです。「秘すれば花」という世阿弥の言葉がありますが、これが相手の想像力を刺激するわけです。解釈は受け手の自由。デザインは多くをしゃべりすぎてはいけないと思います。そして、偶然というのは、命自体が偶然の産物で、精子と卵子が偶然出会ったことで、今の自分という命がある。アイディアも偶然生まれるもの。だから、もっと偶然というものは、大切にされてもいいと思います。そして、気配というものをデザインするということが大切です。「色香漂ういい女」というけど、いい女というのは、やはり気配。だから、コーヒーカップも、テーブルや椅子などをデザインするときも、気配をデザインする気持ちということが大切になるわけです。


つくりたいものをつくる。

今、私は、つくりたいものをつくっている。愛せるものをつくっている。そういう意識でモノづくりをしています。だから、売れるものをつくろうとは思っていません。マーケットなんかは、あんまり気にしない。世界中20カ国で、Kのプロダクトを買いたいという一部の人を集めれば成り立つはずですからね。だから、Kでは、モノというのは、一体何なんだろう?そういうことをやっていけたらいいと思っています。


グラフィックデザイナー、古川正義

グラフィックデザイナーをしている古平正義です。黒川さんとのは、知人に引き合わせていただきました。僕のグラフィックデザインに体する考えは、無理矢理、新しいデザインをする必要はないということなんです。何でも、あまりデザインしすぎない方がいいのではないかと思っています。


グラフィクデザイナーの役割

グラフィクデザイナーの役割というのは、中身をどう引き出すかということが大切だと思っています。ときに個人の作家性などは排して、扱うものの中身を引き立てる。だから既存の色を活かしたり、すでにある素材を用いたりして、デザインをする。僕は、素材を何も与えられない中から、作家的につくるというのは、あまり好きではない。与えられた素材だけで、いかに引き立たせるか、そういうことが大事だと思っているんです。

エディトリアルデザイン的な発想

リクルートの年鑑をデザインしたことがあるのですが、そのときにもパパラッチが撮りためた写真を使ってデザインをしたこともありました。その年鑑のテーマは、「人生広告年鑑」というものでした。リクルートは、求人、結婚、住宅など人生にまつわる広告に関わりの深い会社です。ですから、そういうテーマになるわけですね。で、人生といったときに、ボブ・ディランとか、マドンナだったら、違和感がないだろう。そう思ったんですね。でも、本人たちに撮影をお願いなどできる予算などあるわけもない。そこで、既にあるものを使おうという発想に至ったわけです。それで、探してみたら、60年代から70年代にかけて、パパラッチをしている人物がいて、約15万点にも及ぶその写真が安く借りられるわけです。それを使ったら、アイディアが成立するわけですね。こういう発想も、エディトリアルデザイン的な発想かもしれないですね。


内容は、プロダクトとグラフィックとジャンルの異なるデザインの話でしたが、互いに通じるものがあったようです。おふたりとも、興味深いお話をどうもありがとうございました。

■黒川雅之(建築家/プロダクトデザイナー)

1937年名古屋市生まれ。黒川雅之建築設計事務所、デザイントー プ、物学研究会主宰。 建築からプロダクトのデザインまで数多くの 作品を手掛けている。 毎日デザイン賞、グッドデザイン金賞、独IF賞など受賞多数。 MoMAをはじめ、多数の作品が美術館に永 久保存されている。 2007年4月 株式会社Kを立ち上げ、自身のデザインした作品を中心に製造・販売を開始。 近著に『デザ インの修辞法』(求龍堂)、『八つの日本の美意識』(講談社)。

http://www.k-system.net
http://www.k-shop.net

■古平正義(アートディレクター/グラフィックデザイナー)

1970年大阪生まれ。FLAME主宰。 最近の仕事に、「竹尾ペーパーショウ2007」「同2008」総合ディレクションおよび 書籍「PAPER SHOW」、「ほたるまち」「堂島リバーフォー ラム」 「ハラ ミュージアム アーク」CI、「ラフォーレ原宿・30周年」 「LAFORET GRAND BAZAR」 「アートフェア東京」のアートディレクションなど。 JAGDA新人賞、東京ADC賞、ONE SHOW 銀賞、D&AD 銀賞など受賞。 共著に『スクール オブ デザイン』(誠文堂新光社)ほか。

http://www.flameinc.jp