辛酸なめ子

2008年12月20日、shop btfで行われたのは、辛酸なめ子さんのトークショーです。辛酸さんは、雑誌や本などで活躍をしている漫画家、コラムニスト。「ガーリーな毒」という持ち味を活かして、最新の流行文化を実体験して、そのレポートをユーモラスな皮肉をまじえながら表現することを得意としています。今回は、辛酸さんのご友人でスタイリストの長山智美さんをホストとしてお招きして、辛酸さんが訪ね歩いた場所についてを聞いてもらいました。

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デザインタイド

長山 : 辛酸は面白いところに注目して写真を撮る人だという印象がありましたので、今日は辛酸さんが見たり聞いたりしてきたものを、ランダムに語ってもらったらいいかと思っています。

辛酸 : はい。では、まずはこの場所がデザイン系の会社がやっているということにあわせて、デザインタイドに行ったときのチラシからはじめていいですか。そのタイドで歩いて驚いたのは、このチラシでした。このチラシの中では、この外国人たちがみんな自分のEメールアドレスを公表しているんですね。みんな警戒心がないというか、その点をとても不思議に思ったんですね。

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自分の部屋

長山 : 私は一度、辛酸さんの部屋を取材させてもらったことがあるのですけど、部屋のインテリアがお洒落だったことをよく覚えています。あれは、どんなところで集められたのですか?

辛酸 : 引っ越しをする前は、結構、質素な感じで暮らしていて、部屋の家具も無印良品で買い集めてきたものばかりに囲まれていた感じだったんですね。それで、そういうリーズナブルなものでもすごく長持ちするんです。そうすると、私はこのまま一生こうしたものを使い続けてしまうのではないか、という恐怖心に襲われまして、それで思い切ってお洒落家具を購入することに踏み切ったんです。目に映るものすべてをお洒落にしようと思ったんです。家具を買いに行く場所としては、外苑前にあるシボネが多いかもしれないですね。ちなみに、部屋については『片付けられない女は卒業します』(メディアファクトリー)という本も書いているので、こちらも是非お読みいただければと思います。

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H & M 銀座

長山 : 辛酸さんは、H & Mが銀座にオープンしたときにも、足を運んだようですね。

辛酸 : どんなものだろうと思って並んでみました。そうすると、朝からお洒落をしている人が行列をつくっているんですね。その行列では2時間半くらいは待たされましたね。観察していると、男子はプライドがあるのか決して腰を下ろさないんですけど、女子は簡単に座ってしまう感じでした。開店すると、お洒落な人たちが朝から並んでいたので、お洒落な服があっと言う間になくなってしまった感じがありました。でも、これまでセレクトショップで高かったものが半値くらいで入手できるので、改めてそのすごさを感じましたね。入るときに店員が、何故かハイタッチをしてくれるという、わけのわからない儀式があったりするのも面白かったですね。

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サマーソニック

長山 : 夏に出かけたところがあったとうかがいましだが、辛酸さんは音楽も好きなんですよね。

辛酸 : 私は、ロックなども好きなので、夏フェスと呼ばれるものに行ったりもします。行ってきたのはサマーソニックというロックフェスティバルです。ロックフェスなのに、最初にこの場所で気になったのは、ちょっとロックらしからぬ地味なファッションをした集団でした。で、よくよく彼らが向かう先を調べてみると、彼らが向かった先は、「神の霊に導かれる大会」とかいう、集会。違う目的で同じ幕張にいたというだけだったんですね。エホバの証人の集会です。でも、これもこれですごく面白そうだなあと、私は思ってしまいました(笑)。エホバの証人は、宗教としては非常にいい宗教なんだなぁと思ったのは、駐車場で、私が乗っていた友人の車がそのエホバの証人の信徒のひとりにぶつけられたのですが、ちゃんと謝って、自ら警察にも電話してくれ、後日お金も払ってくれた。真面目な宗教だなぁ、いい宗教なんだなぁとそのときはしみじみ思ってしまいましたね(笑)。それから、夏フェスには入り口でこうして寝ている若者たちが沢山います。彼らは力を温存して自分の好きなアーティスト以外は、こうして寝て待っているんですね。これだけ若い人の寝姿をまとまってみることがないので、それはそれで新鮮でしたね。

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アースデイ

長山 : 辛酸さんは、意外とイベントには足を運ばれるんですよね。

辛酸 : 最近では、アースデイのイベントにも行きましたね。アースデイというのは、世界的に開かれているエコイベントなのですが、最近はずいぶんマシになりましたけど行ってみると、意外と排他的なところがあるところに気づきます。昔なんかだともっと排他的だったんです。「チチカカ」みたいなお店で入手した絞りの服を着たり、頭を団子でゆったり、男性は長髪にしたりしていないと、仲間に入れてもらえない感じです。今回、驚いたのは、ステージ上で、ある人が「この会場には使い捨てのお皿を使っている人がいます」と言って泣き出してしまうというシーンがあって、そのとき私は紙コップを持っていたので、かなり焦りました(笑)。ほかにも、「マイ箸は間違っている。CWニコルは己の体をみて、出直して来い!」というよなことを叫んでいる人がいたり、エコナプキンに対しての座談会を公共の場で堂々とやるというのもありました。「私は量が多いんですけど、このエコナプキンは慣れると紙と同じに使えます」や「うち側から出る血液を直に感じることができるので、また次回、生理の日が来るのが待ち遠しいです」と言うわけのわからない発言をしている人もいたりして(笑)。女子としては、まわりに男性が沢山いたので、ちょっと恥ずかしくなってしまいましたね。それから、エコピープルの座り方というのも、なかなか観ていて面白いです。初心者は敷物に座って、中級者は木陰のそばに座って、上級者は地べたに直に座るという、エコ度が座り方にもあらわれていましたね。

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セレブ犯罪トリップ

長山 : 辛酸さんは写真の展覧会などもやられたりしていたんですよね。そのお話をお聞かせいただけますか?

辛酸 : セレブの気持ちを味わうためにということを考えていて、「セレブ犯罪トリップ」と題して展覧会を高円寺にある無人島プロダクションで行ったことがあります。これは、小さな犯罪を平気で犯すセレブの人たちのニュースを聞いて、一体、セレブの人たちが味わう高揚感というのはどのようなものだろうという想いから写真を撮りはじめたものを展示しました。パリス・ヒルトンリンジー・ローハンケイト・モスなどがミニ犯罪を犯している感覚を、この犯罪未遂シリーズを通じて、体験できたらと思ったんですね。商品に手を伸ばして、万引きをするような仕草をしてそれを写真に収めるんです。実際にやってみると、確かに高揚感のようなものがわいてきて病み付きになる可能性を秘めていることがわかりました。

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■辛酸なめ子(漫画家/コラムニスト)

1974 年、千代田区生まれ、埼玉育ち。武蔵野美術大学短期大学部卒業。本名、池松江美名義では小説やアト作品制作などを行う。近著は「癒しのチャペル」(ちくま文庫) 、「ヨコモレ通信」(文春文庫)、「女子の国はいつも内戦」(河出書房新社)、「男性不信」(大田出版・池松江美名義)、「女の人生すごろく」(マガジンハウス)など。

blog「辛酸なめ子の女一人マンション」
http://blog.smatch.jp/sinsan/